中川 匠(教授)
豊岡 青海(助手)
新井 規暁(大学院生)
増田 裕也(非常勤・ライオンズ整形外科クリニック)
膝関節の障害には大きく分けて、成長期によくみられる筋腱障害、スポーツ・交通 事故時に多い半月板・軟骨・靭帯損傷、加齢に伴う変形性膝関節症が挙げられます。近年、CT・MRIや関節鏡の発達により正確な診断が行われるようになりました。この10年の間に我々膝関節外科医でさえ驚くほどの診断・治療法の進歩が見られます。
ここで、当膝関節診が日常診療・手術を行なっている代表的な症例を紹介します。
症状として膝関節痛や引っかかり、不安定感などがあります。MRIにおいても診断が行なえます。
治療は、関節鏡視下手術を行ないます。関節内に水を還流し膝関節の前方に5mmの小切開を2箇所あけ直径4mm程の細い筒状の内視鏡を関節内に挿入します。関節内の様子はテレビモニターに映し出され、これを見ながら細い専用器械を使って関節内の処置を行います。
医師にとっては熟練と器用さを要求される技術ですが、患者さんの体にとっては負担が少なく、入院期間や社会復帰までの期間が少なくて済みます。
靭帯損傷の原因の多くは、スポーツの際の受傷と交通事故です。スポーツでは、バスケットボ-ル、バレーボールでジャンプから着地した際に痛めることがよくあります。また、サッカーやラグビーなど接触プレーの多い競技でも傷めることがあります。また、スキーもよく靭帯を痛める競技の一つです。前十字靭帯損傷はある種の装具による保存的治療法によっても治癒する症例があることが報告されていますが、ほとんどの症例で膝関節不安定性が残存してしまいます。
この状態でスポーツ活動をしたり、激しい労働などをした場合、「膝が外れるような感じ」がしたり「不安定な感じ」、「膝が怖い」といった症状がでます。また、それほど強い外力がなくても再び膝に血液がたまるような怪我を繰り返したりします。そのたび、膝の関節軟骨や半月板を損傷してしまい、このような状態が続くと将来的に変形性膝関節症という日常生活に支障をきたす病態になってしまいます。このようにならないように私たちは、活動性の高い前十字靭帯損傷患者さんに手術的な治療を薦めています。
手術は半月板と同様に関節鏡視下に行います。膝蓋腱、あるいはハムストリング(半腱様膜筋腱・薄筋腱)を用いて再建術を行なっています。当院では、術後2~4週間の入院期間、その後徐々にリハビリテーションを進めていき、目標とする完全スポーツ復帰は、筋力回復にもよりますがおよそ8~9か月です。
膝に外傷をおった患者さんの中には、その際に軟骨に損傷をきたす人もいます。関節軟骨は自己治癒能力に乏しく、一度損傷すると再生・修復の可能性はほとんどないため、関節軟骨損傷に対する治療法のゴールドスタンダードはいまだなく、現在でも整形外科医を悩ませる大きな問題です。
代表的な手術法として、ドリリング・マイクロフラクチャー法などが挙げられますが、再生組織が硝子軟骨でないため力学的な脆弱性や比較的早期に変性を生じる危険性は否めません。モザイクプラスティー法は膝関節内の非荷重部位から採取した小さな円柱状骨軟骨片で荷重部位の軟骨欠損を修復する方法です。利点としては、硝子軟骨を含む骨軟骨柱で骨軟骨欠損部を置換するため、関節軟骨の生存率が高く、骨癒合が良好であることなどが挙げられます。欠点としては、骨軟骨柱の形状や大きさに制限があり、骨軟骨柱採取に伴うドナー側への侵襲も危惧されます。また、近年では、採取した軟骨細胞を欠損部に補填するような再生医療も行なっております。この方法では軟骨欠損部が正常軟骨で修復されるという利点がありますが、複数回の手術が必要となる欠点もあります。
中高年になって膝関節に痛みが出現する病気に変形性膝関節症があります。最初は立ち上がる時や階段を下りる時に痛みを感じ、水がたまることもあります。次第に歩行困難、膝の曲りが悪くなります。
この疾患の治療法は程度に応じて幾つかあります。
以上、簡単に普段私たちが行なっている症例の概要をまとめてみました。これ以外にも、変形した下肢の矯正術、拘縮した関節の関節形成術、感染した関節の治療など大学病院ならではの症例も多々あります。平均して年間約100の膝関節の手術をしています。
また、学会発表や海外留学・研究の分野でも力を入れています。どうぞ若い先生方一緒に働いてみませんか?